「わたしって口がくさいのかしら?」「ハミガキするとすぐに血が出る」「痛みもないのに突然歯が抜けた!」
このようなお悩みを持った方はすぐに歯周病を思い浮かべるのではないでしょうか。
ご両親が総入れ歯で食事に困っている姿を毎日目にしている方もいらっしゃるでしょう。
それでも日々の診療において、歯周病について正しい知識を持ち予防されている方はまだ多くないように感じます。
歯周病の主な原因となる細菌は誰しも必ず口腔内に存在していますが、早くから正しく細菌をコントロールする事でむし歯よりも比較的容易に予防することができると考えています。
しかしながら、細菌の悪性度・歯ぎしりや食いしばりといった習癖・遺伝的要因によって、ハミガキを一生懸命していても歯周病が進行していくケースも少なくありません。
また歯周病は様々な全身疾患とも関わりが深く、現在当院に通院中の患者様でも、数名ですが過去に歯周病から全身に波及し長期間の入院を余儀なくされた方もいらっしゃいます。
「親も歯が悪かったからどうせ自分も入れ歯になる」「他人からどう思われても気にしない」という方もいらっしゃるとは思いますが、もっと早くから歯を大切にしておけばよかったという患者様の声を耳にする度に予防の重要性を実感致します。
歯周病は非常に多くの因子が関係してはいるのですが、ここでは歯周病に特に大きな影響を与える「細菌」と「力」という2つの原因に焦点をあてて解説をさせて頂きます。正しく理解して頂くとともに、歯周病で歯を失わないために「家庭ですぐにできること」「歯科医院ですぐにできること」を具体的にご紹介させて頂きますので、ぜひ歯の健康だけでなく全身の健康維持につなげてください。
1.歯周病とはどのような病気なのか
1-1 歯周病とは
歯周病とは、ヒトに常在する細菌により歯を支える歯周組織が破壊される炎症性疾患です。(参考:日本歯周病学会)
歯を支えている歯周組織とは上の図の、歯肉・歯槽骨・歯根膜を指します。
このような組織が炎症を起こすことにより、歯ぐきから血が出る、歯ぐきがやせる、歯がグラグラするといった歯周病の症状が引き起こされます。
1-2 実は歯ぐきや骨を破壊するのは自分自身!?
意外と知られていない事ですが、歯ぐきを腫れさせているのも骨を破壊しているのは細菌そのものではなく自分自身の免疫細胞です。
細菌が増殖すると体が反応し、免疫細胞が反応するのですが、この時に免疫細胞は細菌ではなく自分の歯周組織を破壊してしまいます。
もちろん細菌がいなければ歯周病にはなりませんが、免疫細胞もいなければ歯周病にはなりませんし、免疫の反応には全身疾患や遺伝的要因も関わってきます。
ですから仮に同じような細菌が同じ量存在していたとしても、歯周病の進行には個人差が現れます。
そして、今度は細菌増殖によるこの免疫の異常反応が、さらなる全身疾患の発生に密接に関わっています。
1-3 口臭だけではない歯周病の主な自覚症状
歯周病の主な自覚症状としては、出血・口臭・歯の動揺・歯茎の腫れ・歯石の付着があげられます。
① 出血
細菌の付着により炎症を起こしている歯ぐきは、ハミガキや検査などの軽い刺激で容易に出血します。
② 口臭
歯周病の症状の中でも特に気にされている方が多いのが、この口臭ではないでしょうか。
口臭の原因は、健康な体でも日常的に発生する生理的口臭や糖尿病等の全身疾患からくる口臭もありますが、歯周病による口臭は中でも強烈なものになります。
口臭の正体はメチルメルカプタン・硫化水素・硫化ジメチルといったガスです。
これは歯周病の原因菌が口腔内粘膜などのタンパク質を分解することで発生しますが、特に歯周ポケット内に生息する細菌はこのようなガスを発生する能力が高いと言われています。
またこのガス発生に必要なタンパク質が多く、細菌のすみやすい環境が最も整っているのが舌の表面です。このような理由から、舌の表面に白く見える舌苔の除去が口臭予防に効果が高いとされています。(ⅲ:セルフケアの本)
以前口臭予防効果が高いと考えられる歯磨き粉についてまとめた記事もありますので、ぜひ合わせてごらんください。
③ 歯の動揺
「硬いものが噛みにくい」「出っ歯になってスキマが空いてきた気がする」
歯周病が進行して日常生活で不自由を感じ始めるのは、歯の動揺があらわれてからが多いように感じています。
歯を支える歯槽骨を失うことで動揺はひどくなり、上下的な動揺がみられるようになると抜歯の適応になります。
④ 歯ぐきの腫れ
歯周病の初期から現れる症状ですが、重症化すると歯ぐきだけでなく顔面や頸部も大きく腫れあがり、点滴や入院を余儀なくされるケースも少なくありません。
⑤ 歯石の付着
歯石とは歯の表面に付着した石灰化物ですが、主に磨き残したプラークに唾液や血液由来のカルシウム化合物が沈着して、鍾乳石のように徐々に形成されていきます。
1-4 歯周病はどのように進行していくのか?
初期の歯周病は歯肉炎と呼ばれ、磨き残したプラークに対する免疫反応により歯ぐきが赤く腫れ出血しやすい状態になります。
このまま進行していくと歯ぐきが腫れることにより歯周ポケットは4mmを越えて深い状態になり、歯の表面に長期間取り残されたままのプラークは歯石へと変化していきます。また歯周ポケットが深くなれば深くなるほど、歯ブラシでポケット内のプラークを除去することは困難になっていき、さらなる悪化を招く悪循環に陥ります。
歯肉炎が発生してから3-4か月経過すると、炎症は歯肉の表面に留まらず歯槽骨の破壊が始まります。この時には歯周ポケット内にも歯石が付着しており、さらにプラークコントロールは困難な状態に陥っています。炎症が重症化していくと膿がたまり腫れあがることもあります。
歯槽骨の破壊が進行すると、歯がぐらぐらと揺れ始めます。日頃の食事時にもお肉が食べにくいなどの不自由を感じ始めますが、歯周病で破壊された歯槽骨は元には戻らず、正常な咬合力にも耐えられないと悪化は加速していき抜歯に至ります。
1-5 白い歯石と黒い歯石!?
歯周病の進行と予防に大きく関わっている歯石には歯ぐきより表層に見える白い歯肉縁上歯石と、歯ぐきより深い部分に隠れている黒い歯肉縁下歯石があります。
歯石の成分はハイドロキシアパタイトと呼ばれるリン酸カルシウム塩で、お口の中に存在するカルシウムイオンとリン酸イオンが、プラークを核として沈着する事で形成されます。
また歯石が付着した歯面はザラザラと粗造になり、そこにプラークが停滞することが歯周病を悪化させる大きな原因であるといわれています。
前者の歯肉縁上歯石は唾液中のイオンにより作られ白くて比較的やわらかいので容易に除去することができます。
一方で歯肉縁下歯石は、歯肉溝滲出液や血液中のイオンにより形成されるため黒い色をしており、歯肉縁上歯石の約1.5倍固いため除去が困難です。また歯肉縁下歯石が付着する歯根は三次元的に複雑な形態をしていることや、目視が困難である事が、完璧な除去を一層困難なものにしています。
私の経験則にはなりますが、1年に1度くらいの間隔で歯石取りをしてきたという方でも、歯肉縁下歯石は徐々に蓄積してしまっていることが多いと感じています。
歯周病は歯面に付着した「細菌」に「免疫」が働き歯周組織の破壊が起こる。
歯周病な主な自覚症状は、出血・口臭・動揺・腫れ・歯石である。
歯周病で失った歯槽骨は元には戻らない。
歯石は目に見えない部分にも付着している。
2.歯周病になる2つの大きな原因とすぐに実践できる予防法
歯周病はプラークを形成する「細菌」による炎症と、歯や歯周組織に加わる「力」による歯周組織の損傷が大きく関わっています。
あくまでも歯周病のスタートは「細菌」による炎症ですが、歯周病進行の加速要素として「力」による損傷が関わってきます。
歯周病にはこの2つだけでなく数多くの要因が関わっていますが、ここでは最大の原因である「細菌」と重症化の加速要素である「力」に焦点を当てて歯周病の予防法を掘り下げていこうと思います。
2-1 細菌
2-1-1 歯周病の原因菌がいなければ歯周病にはならないが、誰にでも原因菌は存在する。
歯周病は細菌が歯面に付着したのち、プラークと呼ばれる細菌の塊を形成して、最終的には歯周組織を破壊する炎症を引き起こします。
歯周病を引き起こす最大の原因はこの「細菌」です。
歯周病の原因になる細菌はP.gingivalisを代表とするレッドコンプレックスと呼ばれる細菌のグループが最も病原性が高い菌種と考えられていますが、ほとんどの方のお口のなかにこれらの細菌は存在します。
しかしその数や細菌グループ内での割合は個人差があります。
そして、それぞれの細菌にはそれぞれ得意分野があり、歯面に付着するのが得意な細菌、その細菌や他の細菌と結合することが得意な細菌、炎症を引き起こすことが得意な細菌など様々で、それぞれが得意分野で活躍することで、歯周病が成立します。
細菌は2歳半頃までに身近な人物からの感染により獲得しますが、細菌の感染については、次の記事の中で詳しく解説していますので是非参考にしてください。
2-1-2 歯周病は「感染症」であり「生活習慣病」である
歯周病は細菌が原因となる「感染症」である一方で、ブラッシングや食事や睡眠や喫煙といった生活習慣もその進行に大きく関わる「生活習慣病」の側面も見られます。
初期は自覚症状が少なく、むし歯と比べて進行もゆっくりしたものであるため、自身が歯周病になっている実感のない患者様も、日々の診療でめずらしくはありません。
定期的なメインテナンスに長年通ってくださっている患者様だと、歯肉の状態で生活環境の変化を感じる事もあり、改善の提案ができれば歯周病の予防につながります。
お節介になってしまうかも知れませんが、その内容に踏み込んで聞き出すことができる信頼関係を築き上げることも私たちの大切な役割だと思っています。
2-1-3 歯周病の原因菌がたまりやすい2つのポイント
一般的にプラークがたまりやすいポイントとして、歯周ポケットと隣り合う歯の間という2つのポイントが挙げられます。
こういったポイントにプラークがたまり歯ぐきが腫れると歯周ポケットは深くなり、さらにプラークの磨き残しが増えてしまい、その磨き残しによりさらに歯ぐきが腫れたり歯槽骨が破壊されたりして歯周ポケットが深くなる、という悪循環に陥ります。
歯ブラシだけでは歯面の65%しか清掃が行きわたらずに、35%の部分は磨き残してしまいます。こういった磨き残しはわずか3日程度で石灰化が進んで硬くなり、ブラシによる除去が困難な状態に変化します。(ⅰ:トータルペリオドントロジー)
またプラークが1週間蓄積した状態が続くと、歯周病の初期である歯肉炎が発症します。
仮に歯科医院への通院間隔が1週間であったとしても、その間に清掃が不十分でプラークが蓄積していると炎症が持続してしまうので、歯周病の治療や予防に対しては自宅で行うセルフケアが非常に重要になります。
そのため私たちは歯ブラシだけでなく、歯間ブラシやフロスといった清掃器具によるセルフケアを強くおすすめして指導を行っています。
2-1-4 あなたは歯周病タイプ?むし歯タイプ?
歯磨きもろくにしていないのに全然むし歯にならない方や、何十年も歯科医院にいった事がないという方が、皆さまの周りにおられませんか?
もちろん徹底したセルフケアを行い、良好な状態を自身の力だけで維持している方もいらっしゃいますが、むし歯にならず痛みを感じていなかったり見た目で分かりにくかったりするだけでずいぶんと歯周病が進行してしまっている人も見受けられます。
このような違いはお口の中に存在する細菌の種類・数・その割合や、生活習慣の違いによってあらわれます。
特に歯周病の原因菌の中でも病原性の高いグループは嫌気性細菌とよばれ、蓄積したプラークの内部や深くなった歯周ポケットの底といった酸素の行き届かない奥まった部分を好み、そこでどんどんと繁殖していきます。
それだけでなく繁殖によりプラークが増えたり歯周ポケットが深くなったりすることでますます自分たちにとって好都合な条件が整って勢力を拡大していきます。
逆にむし歯の原因菌は酸素を多く必要とする好気性細菌なので、このような環境には適さず繁殖は抑えられるために、全然歯みがきしていないのにむし歯にならないといった事も起きてくるのです。
歯周病は重症化してしまうとむし歯よりもQOL(生活の質)の改善は困難な場合が多いので、多くの歯科医院は定期検診をおすすめしています。
2-2 歯に加わる咬合力
何度も言いますが大前提として歯周病の発生は主に「細菌」による炎症ですが、進行するにつれて歯に加わる「咬合力」の影響が大きくなり、重症化の加速因子として非常に大きな関わりをもっています。
2-2-1 自分で自分の組織を傷つける咬合性外傷とは?
咬合性外傷とは特定の歯に過大な力がかかることで歯周組織が損傷を受けることをいいます。
歯周組織が損傷を受ける事で歯がグラグラしてきたり、食事をする時に痛みを感じたりする事があるのですが、歯が抜けそうなほど動揺がひどくなることもあります。
「歯と歯槽骨」は「骨と骨」と同じようにじん帯でつながっているので、関節の捻挫や脱臼に近いような状態と私は患者様に説明する事が多いです。
そしてそのような部分に細菌による炎症が加わると、歯槽骨の損傷は周囲の歯と比べても一段と速くなります。
また歯周病が重度な患者様の方が、軽度な患者様と比べても、日中や睡眠時の食いしばり・歯ぎしりが多いという報告もあります。(Relationship between severity of periodontitis and masseter muscle activity during waking and sleeping hours:Seiya Kato)
実は歯周病の発生に「力」が関与しているというエビデンスはしっかりと得られていないのですが、「関与は不明」としているエビデンスは存在します。「ニワトリが先か、タマゴが先か」と同じように、どちらが先に発生しているかは、歯周用発生後には区別できない事が起因しているようです。
しかし、咬合性外傷と細菌による炎症が同時におきている複合性咬合性外傷という状態は、歯周病の進行が速い事ははっきりとしており、口腔内に歯周病の原因菌がゼロという状況はありえないため、現実的には歯周病の予防において「力」のコントロールは欠かせないと考えています。
2-2-2 歯槽骨へのダメージは「力」×「時間」
歯槽骨へのダメージは「力の大きさ」に「力が働く時間」をかけあわせた「力積」で考えられています。(ⅴ:知っておきたい「力」のこと)
その「力積」が生体の許容量を超えると歯の動揺や痛みといった症状を引き起こします。
小さい力が短時間働くだけでは特に悪影響はありませんが、例えば自転車で転んだ際に前歯から地面に落下する場合のように短時間でも特大の力が働くと大きな損傷をうけます。
また、睡眠時の歯ぎしりや食いしばりのように、正常な働きと比べても大きな力が長時間加わり続けた場合にも大きな損傷を受けます。
日中でも勉強・パソコン・台所・スマホなど集中して作業をしている際にも歯を接触させる癖はTCHと呼ばれ、決して強く噛みしめているわけではありませんが、時間は睡眠時の歯ぎしり食いしばりよりも長くなる傾向があります。(ⅴ:知っておきたい「力」のこと)
受験シーズンは多くの受験生が歯の痛みを訴えて受診されますがむし歯でないことが珍しくありません。
食事や会話といった日常生活における行動でも歯は接触し力を受けますが、こういった正常な行動における歯の接触時間は平均して1日当たり約17.5分と言われています。(ⅲ:ブラキシズム)
しかし、睡眠時だけでなく昼間にも無意識に噛みしめたり歯ぎしりをしたりすると、食事や会話という正常な活動よりも大きな力が長時間かかり続けてしまい、歯槽骨へ大きなダメージを与えることになります。
2-2-3 歯列不整は高リスク
歯並びが悪いと歯みがきが行き届きにくい事に加えて、特定の歯への咬合力の一点集中につながることがあり、歯周病のリスクは高いと考えてよいでしょう。
特別な意識をせずに口を閉じて歯と歯を合わせた時に、特定の少数の歯が最初にあたってしまうことを早期接触といいます。
こういった歯に指を当ててカチカチと繰り返し噛むと歯の振動を感じます。
この振動をフレミタスと呼びますが、周囲の歯と比べて大きなフレミタスを感じる歯は咬合性外傷を疑った方がよいでしょう。
2-3 歯周病予防のホームケアはプラークコントロールとフォースコントロールの2本柱
ここまで述べてきたように歯周病を予防するためには、「細菌」を除去するプラークコントロールと、「力」を抑えるフォースコントロールが欠かせません。
しかしその2つの中でもプラークコントロールの方が重要で、歯石除去などのプロフェッショナルケアと並べても、歯周病の予防には自宅におけるプラークコントロールが非常に重要です。
歯周病の治療は、患者様のプラークコントロールの水準を高めて、その高い水準をいかに維持するかにかかっていると私は考えています。
2-3-1 歯周病予防にとても効果的なプラークコントロールの方法と道具とは?
歯周病を予防するために最も効果的なプラークコントロールは、患者様ひとりひとりで異なりますので、ある決まった道具と方法で皆さんが完璧にプラークを除去できるわけではありません。
歯みがきの技法もバス法、スクラッビング法、フォーンズ法、ローリング法など数多くが存在します。
こちらに詳しく掲載されていますので参考にしてみてください。
しかしブラッシングの方法によってプラーク除去効果に大きな差があるとは明確になっておらず、患者様ひとりひとりに合わせたブラッシング方法や道具を提案して選択する事が重要です。
ただし以下の4つのポイントは最低限守っていただきたいと考えています。
力をいれすぎない
ブラッシングを行う歯の順番を決める
寝る前の歯みがきには時間をかける
手鏡で見ながら歯磨きする
2-3-2 歯間ブラシは歯みがきよりも効果的!?
歯ブラシでは歯面の約65%しかプラークを除去できず、約35%はプラークを取り残してしまうという報告がありますが、その大部分は歯と歯の間です。(ⅲ:セルフケアの本)
そのため歯間部のプラークを歯ブラシで除去しようと必死になるよりは、1~2分ほど歯間ブラシに時間を充てる方がいいと当院では指導していますし、歯間ブラシの使用で歯肉の状態が改善するケースは非常に多いため、治療開始初期に歯間ブラシの指導は行います。
形状はや太さや素材は様々で、これも患者様ひとりひとりに合わせて提案していますが、必ずゴムのものよりブラシのものをおすすめしています。
また、デンタルフロスよりも歯間ブラシの方が歯面の凹みにも行き届きやすいため清掃効果は高いことが分かっています。(ⅶ:ペリオの教養)
しかし歯ぐきがしっかりとしていて歯間部にスキマが無い方が歯間ブラシを用いると、逆効果で歯ぐきを傷つけて退縮させてしまうおそれがありますので、痛みを感じるのであれば歯間ブラシではなくデンタルフロスを使用するようにしてください。
2-3-3 自分で自分の歯を破壊しないためのマウスピース
夜間の食いしばりや歯ぎしりにはマウスピースが非常に有効です。
顎関節症の治療にも用いられますが、当院では硬い樹脂製のマウスピースを作製して患者様に使用してもらっています。
硬くてツルツルの表面をスケートリンクのように歯が滑ることで、歯や歯槽骨にかかる力を逃がしてくれます。
また、年単位の長期間で使用を継続することにより、強くなりすぎた咀嚼筋が徐々に正常化していき、その結果として力のリスクを低下させることも期待できます。
マウスピースは保険適応内の治療であり、「型取り」「調整・お渡し」の最短で2回の診療で終了します。費用は型取りと装着時で合わせて6,000円ほどの窓口負担で、症状の有無によりお渡し後に調整を行う場合もあります。
2-3-4 認知行動療法
「認知行動療法」というと難しくきこえてしまいますが、要は「気付いてもらい、やめてもらう」というだけです。
本来、安静にしている時に口唇は閉じていても歯と歯は触れていないのが正常な状態です。
実際に問診をしていたり病状を説明したりしていても「私は歯ぎしりなんかしていません」「家族にも指摘されたことがない」とやや怒り気味の反応をされる事も珍しくありません。
歯ぎしりや食いしばりといったブラキシズム習癖の中でも、音がするのは「ナッシング」と呼ばれる一部の歯をこすり合わせる運動だけで全体の30%程度に過ぎません。(ⅲ:ブラキシズム)
ですから睡眠時に音がしなくても歯ぎしりなどの習癖をもつ方は多数いらっしゃいますし、私たちは、歯のすり減り具合・骨隆起・頬や舌につく歯の痕などをみて客観的に判断しています。
特に日中に起きている時間帯は気付くことさえできれば、行動を止めることが容易なので非常に効果的です。
- 作業中でも目につきやすいところに張り紙をする
- 30分~60分の間隔でアラームを設定して、噛んでいないか確認する
- 診断用マウスピースを着用してもらう
認知行動療法の具体的なアプローチは上記のようなものがあげられますが、どれも簡単にご自身でできることですので、ぜひ一度ためしてみてください。意外と昼間に噛みしめていることに気付いてもらえるかも知れません。
2-4 歯周病にならないために歯科医院で行うプロフェッショナルケア
歯科医院では歯石の除去や研磨用ペーストを用いたPMTCを行いますが、目的は患者様自身が効果的にプラークコントロールできる口腔内環境を整えるためです。
たとえ一か月に1回全体的に歯石を除去しても、患者様のプラークコントロール水準が低いと歯周病を予防することはできません。
2-4-1 プラークコントロールが行き渡る口腔内環境を整えるための歯石除去
歯石がもたらす悪影響とは、歯石により歯面がザラザラになりプラークが停滞しやすくなったり、大きな歯石に邪魔をされてブラシの毛先が歯周ポケットに到達できなかったりして、プラークコントロールを妨げるという点です。
当院では以下のような流れで歯周病の治療を行っています。
- 歯周ポケット測定と病状説明による動機づけと超音波スケーラーによる部分的な歯石除去
- 超音波スケーラーによる口腔内全体の歯肉縁上歯石の除去とPMTC
- 歯周ポケット測定と歯肉縁下歯石の確認とプラークコントロール指導
- ハンドインスツルメントによる歯肉縁下歯石の除去
- 歯周ポケット歯肉の炎症の再評価
- 1~6か月間隔での定期的なメインテナンス
まずは歯肉縁上歯石を決して痛みを与えないように除去することでプラークコントロールがいきわたりやすい状況をつくると同時に歯周病治療に対する意識を高めてもらいます。
治療途中でもメインテナンス受診時でも、炎症がみられる部分は随時プラークコントロールの指導を行います。
2-4-2 定期的なメインテナンスでモチベーションを維持する
定期的なメインテナンスは単なるクリーニングではなく、プラークコントロールの水準の維持が大きな目的です。
メインテナンスとメインテナンスの間に、生活を取り巻く環境が著しく変化している患者様も珍しくありません。
妊娠・出産や転職・就職・退職、勤務シフトの変化、一人暮らしのスタート、ご両親の介護など、生活の変化は様々です。
そういった時にでも、現状で最適な手段や目標を提案して、歯周病を予防することがメインテナンスにおける私たちの最も重要な役割だと考えています。
また、専門家によるクリーニングを行った後でも12~16週で細菌グループは元に戻ってくることや、モチベーションを高い水準で維持するために3~4か月の1回のメインテナンスが効果的と考えられています。(ⅰ:トータルペリオドントロジー、ⅱ:プロケアの本、ⅳ:歯科衛生士のためのペリオドントロジー、ⅷ 超明解メンテザペリオ)
)
「細菌」がいなければ歯周病にはならない。
過剰な「力」は歯周病の悪化を加速する。
歯周病予防に効果的な方法はプラークコントロール。
最適なプラークコントロール方法はひとりひとり異なる。
歯石除去はプラークの停滞する部位を減らし、プラークコントロールが効果的に行き渡るようにする事が目的である。
メインテナンスではクリーニングだけでなくブラッシング指導が重要である。
メインテナンスの間隔は3~4か月に1回がよい。
3.歯周病リスクをセルフチェックしてみましょう
- 朝起きたとき、口の中がネバネバする。
- ブラッシング時に出血する。
- 口臭が気になる。
- 歯肉がむずがゆい、痛い。
- 歯肉が赤く腫れている。(健康的な歯肉はピンク色で引き締まっている)
- かたい物が噛みにくい。
- 歯が長くなったような気がする。
- 昔と比べて前歯が出っ歯になったり歯と歯の間に隙間ができたりしてきた。食物が挟まる。
※上記の項目3つあてはまる → 油断は禁物です。予防に努めましょう。
※上記の項目6つあてはまる → 歯周病が進行している可能性があります。
※上記の項目全てあてはまる → 歯周病の症状がかなり進んでいます。
こちらは自覚症状として現れやすい症状を的確にまとめてくださっていたので、日本臨床歯周病学会から引用させて頂きました。
歯周病で生活の質が低下するのは、歯周病がかなり進行してからになりますので早期から対策していきましょう。失った歯は二度と戻りません。
4.歯周病についてよくある質問とその回答
4-1 おすすめの歯ブラシや歯磨き粉はどれですか?
患者様ひとりひとりでオススメの歯ブラシや歯磨き粉は異なりますが、歯周病予防に効果が高いのではないかと感じた市販の歯磨き粉をまとめた記事がありますので、ぜひごらんください。
4-2 歯周病は遺伝するというのは本当ですか?
歯周病は細菌に対する体の免疫応答により、自身の組織が破壊されていきます。
免疫応答は遺伝性が高いため、歯周病は遺伝性疾患の一面もあると考えられています。
ご両親が重度の歯周病である場合はより予防の意識を高めて頂いた方がよいでしょう。
4-3 妊娠中は歯周病になりやすいの?
妊娠初期(5週頃)からホルモンバランスの変化により、唾液の質や細菌グループが変化して、同じように歯磨きをしていても歯肉炎が発生しやすくなることがあります。(ⅰ:トータルペリオドントロジー)
またつわりで歯磨きができなかったり、産後でも生活環境が劇的に変化したりするため歯周病リスクが高まりやすいタイミングと考えられます。
4-4 たばこを吸っていると歯周病になりやすいのですか?
喫煙は歯周病のリスクを約3倍上昇させるといわれています。(ⅰ:トータルペリオドントロジー)
4-5 片側だけで噛むのは歯によくないですか?
片側の奥歯が欠損しているなど片側に極端にかたよりすぎると咬合性外傷の原因となることがあります。
また長年続くと噛む側の筋肉だけが発達し顔貌にも変化をきたすことがありますので、かたよりを無くすための治療や意識はした方がいいでしょう。
4-6 子供の歯石は何歳ごろから取らないといけませんか?
明確な基準となる年齢はありませんが、乳歯が生えそろう2歳半ほどのお子様でも歯石が付着していることはあります。
しかし多くは歯肉縁上歯石で非常に柔らかいもので、歯周病への進展の可能性は極めて低いと私は思いますが、安全に処置をおこなえる年齢になったらハンドインスツルメントで除去を図っています。
4歳を過ぎてからすることが多いように思います。
4-7 デンタルリンスや洗口剤は使った方がいいですか?
クロルヘキシジンという成分は多くの洗口剤に含まれていますが、プラークの生成を阻害する効果が確証されています。
ただし日本で認められている有効濃度は低く、効果は期待できないという可能性や着色しやすい点を考慮する必要があります。
使用上の注意としては、ブラッシング後十分に水でゆすいだ後に使用してください。
4-8 副作用で歯周病になりやすい薬はありますか?
薬剤のなかには歯ぐきを増殖させるものがあり、最もよく目にするのは高血圧の治療に用いられるカルシウム拮抗薬です。
医師と相談の上で、薬剤を変更してもらう事もありますが、変更後は3-4か月程度で改善が見られることが多いです。
4-9 インプラントも歯周病になるというのは本当ですか?
インプラント自体は金属ですが、インプラントを支えているのは歯槽骨です。
プラークコントロールが不十分であれば、歯周病とよく似たインプラント周囲炎を引き起こします。
またインプラントは天然歯と比べてもプラークのたまりやすい形状に作らざるを得ないため、天然歯以上に丁寧なプラークコントロールが必要です。
5.歯周病の本当のおそろしさと放置することの大きな代償
平成30年に厚生労働省が行った調査が最新のもので、そこでは歯周病は抜歯を余儀なくされた歯の約37%で最も大きな割合をしめています。
多くは痛みがないままもう元には戻せない状態まで進行してしまう事や、歯を失うとその分だけ他の歯の負担が増えてしまうことで、歯の喪失のペースは加速してしまうことが、抜歯にまで至ってしまう要因だと思います。
抜歯によって歯を失うだけでなく、重度の歯周病になるとそれだけの炎症が常に起きていることから心血管疾患、誤嚥性肺炎、糖尿病、腎不全といった命に関わる疾患を引き起こす事があります。
私もこれまで診察した患者様でも少なくとも3名は歯周病が原因で1ヶ月以上の入院生活を余儀なくされています。感染性心内膜炎と肺炎でした。
また近年は大雨被害や地震による避難所生活を余儀なくされてしまう事もしばしばありますが、そのたびに口腔ケア困難により誤嚥性肺炎のリスクが高まるという報道を目にする方も少なくないと思います。
平成30年の厚生労働省調べで全世代で見ても肺炎による死亡は5位で、60歳以降に急激に割合が増加しています。
また歯周病患者は歯周組織が健康な方と比較して、心血管疾患のなりやすさが20~50%増加するという多くの研究結果が報告されています。(ⅰ:トータルペリオドントロジー)
そして歯周病と糖尿病は相互に関係しており、糖尿病により歯周病が悪化して、歯周病が悪化することにより糖尿病がさらに増悪するという悪循環が生まれます。
もちろん歯周病の治療を行うことで、糖尿病の主な評価項目であるHbA1Cが3ヶ月でも減少するという報告もされています。(参照:Munenaga Y, hemoglobin in Japanese subjects with type 2 diabetes by resolution of periodontal inflammation using adjuncttopical antibiotics)
近年ではこのように歯周病が歯だけでなく全身の健康に影響を与えているという事は様々なメディアでも取り上げられていますが、科学的な裏付けも進んできています。
まとめ
歯周病はここに書ききれない程の非常に多くの因子が関わりあって発生し進行していきます。
しかし、原因が数多くあるということは、歯周病予防のために私たち歯科従事者が医院で出来る事や、患者様ご自身やご家族の方が自宅で出来ることも数多くあります。
歯周病のリスクゼロを目指すのは非現実的かも知れませんが、原因のひとつひとつを少しずつでも小さくしていけば、その積み重ねで歯周病から歯を失い健康を損なうリスクは減らす事ができると考えています。
繰り返しになりますが、歯周病の予防には生活習慣の改善も含めたセルフケアが非常に大切です。
新型コロナウィルスが蔓延する中で優先順位をつけて行動の選択を迫られる機会も多々ありますが、ご自宅でできる事、医療機関でしかできない事を正しく認識して頂く事が必要だと感じています。
そのための知識をこの中からひとつでも獲得し、皆さまの健康維持に役立てて頂ければ幸いです。
参考文献
- ビョルンクリンゲ著 スウェーデンの全ての歯科医師・歯科衛生士が学ぶトータルペリオドントロジー
- 新田浩・茂木美保・小林宏明著 プロケアの本
- 佐藤聡・両角祐子・小牧令二著 セルフケアの本
- 伊藤中・岡賢二著 歯科衛生士のためのペリオドントロジー
- 牛島隆・森本達也・熊谷真一・市川哲雄著 知っておきたい「力」のこと
- 牛島隆・栃原秀紀・永田省蔵・山口英司著 ブラキシズム
- 関野愉著 ペリオの教養
- 山本浩正著 超明解メンテ・ザ・ペリオ
- 朝日レントゲン NEO DENTAL i 3
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