「差し歯が黄ばんでみっともない」
「自信をもって笑いたい」
時間がたって黄ばんできた差し歯を見ると、なんとか白くてキレイな歯を取り戻せないものかと考えてしまいますよね。
保険適応内で作った差し歯は、素材の性質上、時間が経つと変色し黄色くなってしまいます。
黄ばんでしまった差し歯は、歯みがき粉やホワイトニングで白さを取り戻すことはできません。
なぜなら差し歯の黄ばみは表面に付着しているだけでなく、顕微鏡レベルの細かい素材の穴の中にまで入り込んでしまったものだからです。
一方でキレイな状態を長く保つことが出来るセラミックの差し歯は保険外治療となり、10万円前後の費用が必要になることがほとんどです。
歯科医師から治療方法を提案され、悩んだ経験がある方も少なくないでしょう。
ここでは、黄ばんでしまった差し歯を治療して白い歯を取り戻す方法と、その費用や治療期間、そしてできるだけ黄ばみを抑えるために必要なポイントを解説させて頂きます。
皆さまがご自身にとって最適な治療方法を安心して選択するために、ぜひ参考にしてください。
そして自信のある笑顔を手に入れてください。
1 黄ばんだ差し歯を治す方法はただひとつ
黄ばんでしまった差し歯をきれいにする方法は、差し歯を新しく作り変えるしかありません。
しかし、ホワイトニングや歯磨き粉、重曹磨きなど様々な情報がインターネット上でも見かけられますので、それぞれの効果も検証しつつ解説させて頂きます。
1-1 キレイにするなら差し歯をやり替えるしかありません
時間がたって黄ばんでしまった差し歯を白くする方法は、古い差し歯を取り外して、新しい差し歯に作り変えるしかありません。
一般的に黄ばんでしまう差し歯は保険適応内の治療で作られた硬質レジン前装冠というもので、金銀パラジウム合金の表面に硬質レジンと呼ばれる白い樹脂製の材料を結合させているかぶせものです。
差し歯の黄ばみはこの硬質レジンという素材が多孔性といい、肉眼では見えないような気泡のような穴が多数含まれていることに由来します。
硬質レジン前装冠の表面は図のようにどうしても小さな穴が多数存在して、非常に細かな「ざらつき」が存在します。
一方で、天然の歯質やセラミックやジルコニアといった素材は、このような多孔性という性質はないため、表面は非常に滑沢です。
もちろんこの「ざらつき」は目で見ても下で触っても分かるような大きさではなく非常に細かいものです。
しかしこの「ざらつき」に着色成分が入り込み沈着すると、いくら磨いても歯ブラシでこすり落とせるものではなくなってしまいます。
口腔内において安全に使用できるような薬品で、着色を化学的に分解することもできません。
また、ホワイトニングで用いるような薬剤も、根本的に歯のエナメル質に作用させるために作られている薬剤ですので、効果はありません。
そのため、黄ばんでしまった差し歯を白くすることができるのは、その差し歯を外して新しくキレイな差し歯に作り変えるという治療が唯一の選択肢となってきます。
1-2 ホワイトニングでは差し歯は白くならない
ホワイトニングでは、天然の歯を白くすることはできますが、残念ながら差し歯の黄ばみを取り除き白くすることはできません。
実際に黄ばんだ差し歯の、一部分にだけ薬剤を塗布してオフィスホワイトニングを行ってみました。
来院1日分にあたるサイクルを行ってみました。
薬液を右上の前歯一本だけに塗布し光照射を1分間行い洗い流す、という処置を3回行ってみました
処置後に左右の前歯を比べてみても、ホワイトニングを行った部分が白くなったとは感じられない結果になりました。
なぜホワイトニングで差し歯が白くならないのかご理解して頂くために、ホワイトニングの薬剤が作用する仕組みを解説させて頂きます。
また当院ではGCの「ティオン ホワイトニングシステム」を用いています。
低刺激でありながら高いホワイトニング効果を得ることができます。
ホワイトニング剤の中で成分は漂白に有効な成分は過酸化水素です。
過酸化水素が酸化し分解されていく過程で発生する「フリーラジカル」というものが沈着した色素を分解します。
歯科医院で行うオフィスホワイトニングの薬剤には過酸化水素が含まれ、自宅で行うホームホワイトニングの薬剤には過酸化尿素が含まれていることが一般的です。
このホームホワイトニングの薬剤に含まれている過酸化尿素は分解されていく過程で過酸化水素となり、オフィスホワイトニングと同様の効果をゆるやかにもたらします。
ホワイトニングで歯が白く見える効果は、このように沈着した色素を分解する働きだけでなく、歯の表面のエナメル質がすりガラスのようになり透明感が減ることによる部分もあります。
すりガラス用になることで、歯面にあたる光が乱反射し、内部の黄色い象牙質の色を隠すことにより白く見えるのです。
差し歯ではこのようにすりガラス状になり白く見えるような効果は期待できません。
また、滑沢なエナメル質よりも、多孔性である差し歯の硬質レジンの方がより深くまで着色が浸透してしまっているため、色素を分解する働きも届かないという事が、写真のような結果につながったと考えられます。
1-3 デンタルマニキュア
歯の表面に塗ることで、歯を白くするデンタルマニキュアと呼ばれる商品が市販されているのを見かけます。
今回は株式会社ハニック・ホワイトラボさんから発売されている「ハニックDCアクア」をamazonで購入し、実際に黄ばんでしまった差し歯に塗ってみました。
公式ホームページ上で紹介されている方法を参考にして、実際に塗布してみました。
塗布後の写真です。ムラが出来ないように薄く均一に塗布しましたが、光沢がある程度でしょうか。
やや写真では伝わりにくいので、別角度からも撮影してみました。
使用してみた感想としては、歯の表面にある凹凸に液がたまり、かなりのムラができてしまうのが難点だと感じました。
また、液が溜まらないように薄く塗布すると、白くなったというよりは光沢が出たという程度の変化でしたので、望むような差し歯の白さを一時的にでも得ることは不可能でしょう。
1-4 番外編 重曹で磨くと白くなる!?
重曹とは、炭酸水素ナトリウムのことで、最近では水回りやキッチン周りのお掃除に用いられることがふえています。
この重曹で差し歯を磨くと効果があるという説を、インターネットで見受けることがありますが、効果を確認するために実際の黄ばんだ差し歯を重曹で磨いてみました。
重曹を適時塗布しながら、5分ほどブラッシングを行ってみました。
特に白さに変化は認められません。
肉眼では少し表面がザラザラになったように感じました。
重曹は水溶性ですが、歯磨き粉に含まれる研磨剤と比較しても非常に粒子が荒いため、樹脂に傷がついたと考えられます。
2 差し歯のやり替えについて
黄ばんでしまった差し歯をキレイにするための方法としては、差し歯を新しく作り変えることが最適です。
ここでは、古い差し歯をはずして新しい差し歯を作っていく一連の流れや、費用・期間について解説していきます。
2-1 費用
種類 | 硬質レジン前装冠 | オールセラミックスクラウン | ジルコニアクラウン | メタルボンド |
写真 | ||||
| 保険適応内 | 保険外 | 保険外 | 保険外 |
| 3割の窓口負担計算で、型取りで約3000円、装着時に約5000円 | 8~15万円+消費税 | 6~15万円+消費税 | 8~15万円+消費税 |
差し歯のやり替えにかかる費用は素材や必要になる治療により上記と異なる場合がありますが、一般的な相場として提示いたしました。
またそれぞれの素材についてさらに詳しく知りたいという方は、次の記事も是非参考にしてみてください。
差し歯ってどんな種類があるの?5つの差し歯の材質を詳しく解説
2-2 期間
差し歯のやり替えにかかる期間は、必要になる処置にもよりますが、例えばクラウンだけを除去してやり替えるだけの場合であれば、最短で1回で終わることもあります。
セレックと呼ばれる機械が導入されていて、保険外診療としてこのような診療を行っているクリニックもあります。
当院ではまだセレックは導入していません。
一般的には古い差し歯の除去から新しい差し歯の装着まで、3~5回程度で2週間~2か月が一つの目安になるかと思います。
治療回数に大きな幅はありますが、根管治療の必要性の有無や、色調の試適など、必要な項目がケースバイケースであることが、この回数の幅に大きく影響しています。
事前に歯周病の治療が必要な場合では、さらに回数や期間が必要になる場合もありますが、歯周病治療はむし歯や歯周病リスク、審美性に大きな影響を与えまずので、できる限りしっかりと処置をうける事をお勧めいたします。
将来のやり直しを減らす事が、結果的には多くの歯を残すこと、歯医者への通院する回数や出費を抑えること、健康寿命を延ばすことにつながります。
2-3 差し歯をやり替える治療の流れ
2-3-1 古い差し歯を外す
新しい差し歯を作るために、まず古いクラウンを外します。
クラウンを外すにはまずはクラウンの表面に細いスリットを入れるように削っていきます。
ここにマイナスドライバーを差し込みひねることにより、クラウンの接着を外します。
外すときに多少の力はかかりますが、炎症を起こしていたり重度の歯周病で揺れていたりする歯でない限り、患者様から痛いと言われることはまずありません。
場合によっては差し歯のクラウンの部分だけでなく、土台となるポストコアを除去する場合もあります。
ポストコアまでやりかえるのは、例えばむし歯になってしまっている場合や根管治療が必要と感じた場合、審美性をよりよくするために金属のポストコアを白いファイバーコアにやりかえる場合になります。
ポストコアの除去の方法も様々ですが、基本的にはクラウンと同様で、多少力をかけることでセメントによる接着をはがして外します。
日常生活で外れることが無いような差し歯でも、少し素材を削ったうえで適正な方向に力をかけると、外すことが出来ます。
歯の揺れが強い場合や、歯根の歯質が薄く破折の恐れがあるような場合では、超音波スケーラーでセメントを細かくしてから除去することでリスクを抑えることが出来ます。
2-3-2 仮歯をつくる
次に即時重合レジンを用いて仮歯を作ります。
特に前歯の差し歯をやりかえる治療を行っている期間、前歯が無い状態で過ごしてもらう事がないように、仮歯を作ります。
仮歯の段階でも、色調の調和が強く求められるような場合は歯科技工士に製作を依頼する場合もありますが、当院ではこのような場合は保険外診療としています。
チェアサイドでの仮歯の作り方を私の方法で説明させて頂きます。
まず即時重合レジンの粉と液を混ぜ、餅状になるまで練和します。
次にそのレジンの塊を、対象歯に圧接します。
少し硬化が始まった頃合いを見て、レジンの塊の内部に筆で取った即時重合レジンを盛り、再度対象歯に圧接します。
再び硬化するまで、何度か抜き差ししながら、口腔内で保持します。
硬化したら撤去し、歯の形に削っていきます。
形ができあがり、咬み合わせの調整も終わったら研磨し、仮着用セメントで仮着します。
2-3-3 型取りをする
仮着されている仮歯を撤去し、仮着用セメントを除去した後に、型取りを行います。
型取りには保険適応内の治療では、寒天印象材とアルジネート印象材も用いています。
保険外の自費診療では、シリコーン印象材を用いていますが、寒天印象材やアルジネート印象材よりも精度が高く変形が少ないため、より適合の良いクラウンを作製することができます。
適合のよいクラウンは、虫歯や歯周病になりにくく長持ちするというだけでなく、装着する際に一層のセメント部分が非常に薄くなり審美性でもよりよくなります。
2-3-4 装着する
最後に歯科技工士が作製したクラウンをセメントにより装着します。
作製したクラウンの種類により用いるセメントの種類は異なりますが、オールセラミックスクラウンなど光をよく透過させる素材の場合は、セメントの色も慎重に選択します。
装着するまでは、万が一色調の不調和があったとしても、比較的容易に色調を修正することが出来ます。
またそもそも差し歯とはどのような仕組みなのかも知りたい方は、ぜひ「差し歯の仕組み」を参考にしてみてください。
歯が折れた!歯医者に行くまでに知っておきたい差し歯の仕組み3要素
3 差し歯はなぜ黄ばんでくるの?
差し歯が黄ばんできてしまうのは、素材の表面や、素材の中にある非常に小さな孔に色素が沈着することが大きな要因です。
黄ばんでしまった差し歯のほとんどは保険適応内の硬質レジン前装冠だと思いますが、なぜ黄ばんでしまうのか解説していきます。
3-1 取れる黄ばみと取れない黄ばみ
差し歯についてしまった黄ばみでも、歯みがきや歯科医院での歯面清掃により容易に除去できるものと、磨いただけでは取れない黄ばみがあります。
このように表面に付着しているだけの黄ばみは、ブラシや研磨剤により取ることが出来ます。
多くは細菌の塊であるプラークや、コーヒーやワインなどの色素、タバコによる着色です。
天然の歯質やセラミックやジルコニアは、表面が非常に滑沢で凹凸や細かな穴はありませんので、着色するとしてもこのように表面で留まります。
特に硬質レジン前装冠で用いられるような樹脂の素材は多孔性という性質をもち、肉眼では見えませんが顕微鏡などで非常に大きく拡大すると、細かい孔が存在する構造になっています。
この細かい孔に入り込んでしまった黄ばみは、表面を研磨しただけでは除去することはできません。
この場合も多くはプラークや、食材由来の色素による着色です。
3-2 素材による違い
表面への着色、内部に入り込む着色はどちらも素材によって、その程度は大きく異なります。
簡単にご理解して頂くために、プラスチックと陶器のお皿に赤色の絵の具を塗り、着色の進行を比較してみました。
左がプラスチックで、右が陶器のお皿です。
次にこの2つのお皿を洗ってみます。
およそ6時間ほど絵の具を塗布していただけですが、左のプラスチック製のお皿の汚れの一部分は洗っても除去できませんでした。
この違いは、プラスチック製のお皿も多孔性であるため顕微鏡レベルで細かい孔や凹凸があるが、陶器のお皿にはほとんど隙間がないということに起因しています。
このように細かい孔の有無は、表面の滑らかさにも大きな影響があるため、表面の着色の量にもつながります。
4 差し歯の黄ばみを最小限に抑えるための3つのポイント
差し歯の黄ばみを最小限にして、できる限り長い間キレイな状態を維持するためには、セラミックやジルコニアなどを用いた差し歯に作り変えることが最も効果的です。
しかし、健康保険が適応されるのか適応されないのかによる治療費の差は決して小さいものではないため、患者様により差し歯の素材の選択は様々です。
ここでは、少しでも差し歯の黄ばみを減らすための方法を3つのポイントとして説明いたします。
4-1 着色しにくい素材を用いた差し歯にする
黄ばみ・着色に最も大きな影響をあたえるのは差し歯の白い部分の素材です。
保険適応内の硬質レジン前装冠は多孔性であるために、表面にも着色がつきやすいだけでなく素材の内部にまで入り込み、黄ばんだ差し歯になってしまいやすい一方で、保険外のセラミックやジルコニアを用いた差し歯であれば、着色しにくく黄ばみをほとんどなくす事が出来ます。
そのため、今後長期に渡ってキレイな歯でいたいと強く望まれる方には、保険外になりますがジルコニアやセラミックを用いた差し歯にすることを強くお勧めいたします。
4-2 歯ブラシ・歯磨き粉
黄ばみの原因となるプラークや飲食物由来の着色も、付着したまま放置するのか、付着したらすぐにきれいに清掃するのかにより、長期的にみると黄ばみの程度は大きく異なります。
しっかりと歯みがきで汚れをおとすことで、少しでも長くキレイな状態を保つためには、私は次のような歯ブラシと歯磨き粉をお勧めいたします。
毛先がラウンドタイプで効率よく汚れを落とすことが出来ることに加えて、素材の表面に与える傷を最小限に抑えます。
汚れを浮かせるPE400という成分とLime粒子という細かな研磨剤により、力を入れなくても効率よく着色や汚れを落とすことが出来ます。
その他にも効果的な歯ブラシや歯磨き粉はあると思いますが、次のようなものは長期的にみると逆効果であることが多いため注意してください。
・かための歯ブラシ 磨くときにはしっかり着色をこそぎ落とせるが、差し歯の素材の表面が傷つきやすく、新たな着色が付きやすくなってしまう恐れがあります。
・粒子の荒い研磨剤 こちらもかための歯ブラシと同様で、磨くときにはしっかり着色をこそぎ落とせるが、差し歯の素材の表面が傷つきやすく、新たな着色が付きやすくなってしまう恐れがあります。
4-3 着色しやすい飲み物・食べ物・嗜好品
着色しやすいものの代表例としては、コーヒー・紅茶・赤ワイン・カレー・タバコ・チョコレートがあげられます。
もちろんこれらを一切口にしてはいけないわけではありません。
そこでおすすめしているのが、これらを口に入れた後ブクブクうがいをしたり、ミネラルウォーターを飲んだりして、早く洗い流すということです。
着色の成分が、差し歯の表面に残留している時間が短ければ短いほど、長期的にもキレイな状態を保つ子度が出来ます。
まとめ
このように黄ばんでしまった差し歯をキレイにする方法や、その仕組み・予防法について解説させて頂きましたが、参考になったでしょうか。
やはり、黄ばむことがほとんどないセラミックやジルコニアという素材を用いた差し歯にすることが、黄ばみを抑えるという点においては最適ですが、選択の自由はありますし、効果的に予防することでレジンへの着色も少なくすることは可能です。
まずは信頼のおけるかかりつけの歯科医院でしっかりと説明を受け、皆さまに合った治療方法が選択できる手助けとなれば幸いです。
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