「そんなに悪いことばっかりするなら、歯医者に連れて行って歯を抜いてもらうよ!」
最近はこのような叱り方をするお母さんも少ないと思いますが、歯医者ってイヤなものですよね。
でも近年はむし歯や歯周病を予防するために、定期的に歯科医院を受診する時代です。
経験されたことがある方は忘れることができないと思いますが、大きなむし歯による痛みは夜も寝られないほどの激痛です。
歯医者に行くのはイヤで仕方がないけれども痛みから解放されたくて大きな一歩を踏み出して来院される方は大勢いらっしゃいます。
そのような苦しみを今後経験したくない、自分の子供にも経験させたくないと考えていらっしゃる方も少なくないでしょう。
そのために、「むし歯とは何か」「なぜむし歯が出来るのか」、そしてむし歯を予防するために「自宅でできる事」と「歯科医院でできる事」の双方を、歯科医師として徹底的に解説いたします。
ここで書かせて頂いたことは必ず皆さまにもあてはまる内容ですので、膨大な情報量にはなりますがぜひご理解を深めて頂き、むし歯の痛みや不安と無縁の生活を送って頂ければ幸いです。
第1章 むし歯とはいったい何なのか?
まずここでは「むし歯」とはいったいどのようなものなのかを解説いたします。
「むし歯」という言葉は幼児でもみんな知っているくらい身近な言葉ですが、「むし歯」とはどのような状態の歯なのかを説明できる方は非常に少ないように感じます。
むし歯を予防するためには、まずむし歯そのものについて理解を深めて頂きたいと思います。
1-1 むし歯とは
「むし歯」とは「歯面に付着した細菌が作り出す酸により歯質が溶かされてしまった状態」の事を指します。(医歯薬出版 デンタルハイジーン別冊 歯科衛生士のためのカリオロジー参照)
もちろん進行していくと穴が開いてしまったり、原型を留めないほど崩れてしまったりもしますが、初期の状態でわずかな白濁だけでも「むし歯」に含まれます。
1-2 脱灰と再石灰化
「脱灰」とは「歯を溶かすこと」、「再石灰化」とは「溶けかけた歯を再び固くすること」です。
そして「脱灰」を引き起こすのが主にむし歯の原因菌であり、「再石灰化」をもたらすのが主に唾液です。
「むし歯」をご理解いただく上で、この「脱灰」と「再石灰化」のふたつはかかせません。
この脱灰と再石灰化は互いに相反する効果をもたらす現象ですが、どちらも歯が口の中にある限り24時間いつでも発生している現象です。
この脱灰と再石灰化の働きが同じ強さで働いている時は、歯に何の変化も起こりません。
しかし脱灰の働きが、再石灰化よりも強くなると、歯はどんどん溶け始めむし歯が進行していくことになります。
その反対で再石灰化の働きが、脱灰よりも強くなると、むし歯になりかけてしまった歯が修復されていきます。
どちらも常に発生している現象ではありますが、「脱灰」をできる限り抑えて、「再石灰化」をできる限り手助けすることが、むし歯予防の根底であるとご理解いただければ幸いです。
(医歯薬出版 口腔保健・予防歯科学 参照)
1-3 むし歯の進行ステージとそれぞれの対処法
むし歯のステージ | CO | C1 | C2 | C3 | C4 |
---|---|---|---|---|---|
| |||||
対処法 | 予防 | 予防 | 修復処置 | 神経の処置 修復処置 | 抜歯 |
むし歯は細菌が付着したエナメル質の表面から徐々に内部に向かって進行していきます。
ここで注目して頂きたいのですが、COやC1、そして早期のC2では大きな穴が開く事がありません。
またこの段階で痛みや違和感といった自覚症状が現れることも稀です。
それぞれの患者様のむし歯リスクの高さによって判断基準は異なりますが、一般的にはCOとC1のような初期むし歯では、「再石灰化」により健康な状態にもどることができるため、それを手助けするための予防処置に力を入れていきます。
C2以降は進行を抑えることが困難で、再石灰化により健康な状態にまでは戻らないため、「むし歯を削って詰め物をする」という修復治療の対象となります。
第1章まとめ
むし歯とは「細菌が作り出した酸によって、歯質が溶かされてしまった歯」のことである。
歯の表面では、常に歯を溶かす「脱灰」と、歯を修復する「再石灰化」が発生している。
「脱灰」の主役はむし歯の原因菌で「再石灰化」の主役は唾液である。
「脱灰」をできる限り抑え、「再石灰化」をできる限り手助けすることが、全てのむし歯予防の基本である。
CO~C1の状態であれば、「再石灰化」により健康な状態にもどることが出来る。
第2章 むし歯になる3つの原因とすぐに実践できる予防法
むし歯が発生や進行に関わる要因は、歯みがきや甘いお菓子だけでなく数多く存在しますが、「細菌」「環境」「食事」という3つに分類することができます。
そしてその全ての要因が、先述の「脱灰」や「再石灰化」という働きを左右するものです。
この3つの輪から構成される図は、むし歯の発生を解説する際に昔からよく用いられるものですが、3つの輪が重なる部分が大きいほどむし歯リスクが高いということになります。
そして、その重なる部分を小さくするためには、1つの輪だけ極端に小さくしても効果はあまりありません。
でも3つの全ての輪を少しずつでも小さくすれば、輪が重なる部分が小さくなり、むし歯リスクを低く抑えることが出来る、ということを示したものです。
近年ではこれらの要因に影響する「健康意識」「社会・経済的要因」「生活習慣」といった側面からのアプローチも着目されていますが、ここでは3つの要因について具体例を挙げながら解説した上で、それぞれの輪を小さくするために「自宅でできること」「歯科医院ですること」を具体的に解説いたします。
2-1 細菌
①むし歯の原因菌とは
最もむし歯の発生に関わっている原因菌はミュータンスレンサ球菌と呼ばれる細菌です。
他にもむし歯の原因となる細菌は存在しますが、このミュータンスレンサ球菌を含めてどれも「糖を材料として酸を作り出す能力」を備えています。(医歯薬出版 デンタルハイジーン別冊 歯科衛生士のためのカリオロジー参照)
この細菌が作り出した酸が歯の脱灰を促進し、むし歯を発生・進行させていきます。
もちろんむし歯の原因菌が多ければ多いほど、作り出される酸の量も増え、むし歯のリスクも高くなっていきます。
②酸を作り出す細菌がいなければむし歯は起きない
むし歯は、酸を作り出す細菌が口腔内に存在しなければ発生することはありません。
通常のラットと抗生物質で無菌化されたラットで比較した実験でも、無菌化されたラットではむし歯が発生しませんでした。(Orland 1955,FitzgeraldKeyes 1960 論文)
そしてミュータンスレンサ球菌は口腔内のどこに住み着くかというと「歯」にしか住み着きません。
赤ちゃんとして生まれてから約6か月の間は歯がまだ生えていませんが、実はこの歯が生えてくるまでの間にはミュータンスレンサ球菌が口腔内に存在しない事がわかっています。(Caufield 1993 論文)
ではこのミュータンスレンサ球菌は「いつ」「どこから」「どうやって」口の中にやってくるのでしょうか?
★むし歯は感染症である。
むし歯の原因菌の多くは、お母さんやお父さんといった最も身近な存在からの「感染」で赤ちゃんの口の中に住み着くようになります。(Caufield 1993 論文)
このような近親者からの細菌の感染はむし歯に限った特別なことではありませんし、体の健康維持に必要な細菌の感染もありますのでご安心ください。
最近は社会的な背景の変化からご存知の方もたくさんいらっしゃいますが、スプーンやフォークなどの食器や、キスなどのスキンシップを介して「感染」していきます。
家庭環境によってはおばあちゃんおじいちゃんから「感染」することもあります。
★むし歯の原因菌の感染は防げるの?
むし歯の原因菌に限らず、細菌の感染を完全に防ぐことは不可能です。
ただし、むし歯の原因菌の感染には特徴がありますので、いくつかのポイントを押さえて頂けたら、感染する細菌の量を減らす事はできるでしょう。
まず、むし歯菌が感染する月齢はかなり限られた時期に集中していることが分かっています。
生後約19か月から31か月の間に大幅に細菌量の上昇がみられ、この期間は「感染の窓」と呼ばれています。(Caufield 1993 論文)
この「感染の窓」の期間に感染の機会を減らす事ができれば、将来むし歯になりやすい口になることを防ぐことが出来ます。
この時期に親の唾液がついたスプーン・おはし・フォーク・コップ・ストロー・食べ物・飲み物が、子供のお口の中に入らないようにする事が重要です。
あとはスキンシップの方法もすこし考えてみてください。
もちろん私自身も子供は大好きですし、子供と接していることが生きがいですが、お子様の将来のためにもソフトなスキンシップを心がけましょう。
③「細菌の輪」を小さくするために誰でもできるホームケア
ここまで細菌とむし歯の関係を解説してきまし、この「細菌の輪」を小さくするために誰でも自宅で実践できる具体的なホームケアとなると歯みがき・フロス・歯間ブラシなどによるプラークコントロールや、細菌がお子様にうつらないようにすることです。
★むし歯を予防するために使いたい歯ブラシ
このようにヘッド部分が薄い歯ブラシや、ヘッド部分がコンパクトな歯ブラシは最もむし歯になりやすい上の奥歯の側面や奥が非常に磨きやすくなっています。
よほど歯ぐきが腫れていて痛いような事がない限り、どんな歯ブラシでも硬さは「ふつう」がおすすめです。
★フロスと歯間ブラシは必要!歯ブラシだけでは6割しか取れない。
歯ブラシだけでは歯面に付着したプラークの約6割しか除去できないという事実は、1972年に日歯周誌に掲載された山本昇先生の論文により明らかになりました。
歯ブラシもメーカーにより様々な改良が日々されていますので除去効率は向上しているかとは思いますが、それでも歯ブラシだけで100%除去することは不可能でしょう。
そのためフロスや歯間ブラシといった補助器具により歯間部を清掃することは不可欠です。
ちなみに音波ブラシや電動歯ブラシは手用の歯ブラシと比較してもテクニックを要しますので、あまりおすすめはしていません。
<医歯薬出版 デンタルハイジーン別冊 歯科衛生士のためのカリオロジーより抜粋>
フロスは持ち手のついたホルダータイプと、指に巻きつけて使用するロールタイプがあります。
基本的にロールタイプの方が経済的で、ひっかかって抜けなくなるという事もないのでおすすめしていますが、少しコツは必要ですので苦手な方はY時型のホルダータイプもおすすめしています。
また糸にロウが塗られているワックスタイプの方がほつれることも少ないので、ご家庭で使用されるものはワックスタイプがよいでしょう。
歯間の歯肉が少し痩せてしまい隙間が広がってしまった方は、フロスではなく歯間ブラシを用いる方が効果的です。
LIONのDENT.Ex歯間ブラシは4Sという細さまで揃ったラインナップになっていますので、当院でも使用させて頂いています。
★お子様への細菌の感染をコントロールする
むし歯の原因菌のミュータンスレンサ球菌は、次亜塩素酸ナトリウムで滅菌することが出来ます。(クインテッセンス出版 ミュータンス連鎖球菌の臨床生物学─臨床家のためのマニュアル 参照)
次亜塩素酸ナトリウムはドラッグストアでも簡単に手に入る「キッチンハイター」や「ミルトン」の主成分です。
先述のように、お口の中のむし歯の原因菌の約50%は生後19~31ヶ月の「感染の窓」と呼ばれる時期に、ご両親など身近な方々から感染することが分かっています。
まず、大人の唾液が付着したスプーンやおはしやストローといった食器は、お子様の口に入れない事が重要です。
私自身の経験では、ストローやコップといった飲み物に関わるもので、つい気が緩んでしまうことが多い気がしますのでご注意ください。
このような製品を活用し、大人の唾液から細菌が付着してしまっている食器を滅菌した上で、お子様が使用する事も有効です。
(個人的にはそこまでする必要はない気がしますが・・・)
そして、なによりも注意が必要なのは、次亜塩素酸ナトリウムには金属腐食性がありますので、金属製品の滅菌には絶対に使用しないでください。
④「細菌の輪」を小さくするために歯科医院でしてもらうこと
歯科医院ではこの「細菌の輪」を小さくするためにブラッシング指導やPMTCを行います。
歯面に付着したガンコな汚れをキレイに取り除くだけでなく、歯の表面をツルツルにすることで細菌の新たな付着を少なくすることが出来ます。
使用する道具は、歯科用ハンドピース、ラバーカップ、ラバーチップ、研磨用ペースト、仕上げ用ペーストです。
このように黄色く固まってしまったプラークは歯面に強固に付着しているため、歯ブラシだけではなかなか除去することができません。
研磨用ペーストをつけたラバーカップを歯面に押し当てて回転させることで、このような強固なプラークを除去します。
研磨用ペーストの粒子の大きさは様々ですが、荒いものから細かいものの順番に使用して研磨していきます。
最も細かい粒子のペーストでも、歯面には目に見えないような細かいキズが残りますので、そのキズを埋めてくれる「アパガードリナメル トリートメントペースト」というペーストで仕上げ研磨を行います。
ラバーカップにこのペーストをつけて歯面に擦りこみ、5分ほど放置したあと口をゆすいでもらいます。
2-1まとめ
むし歯は、糖を材料として酸を作り出す細菌によって引き起こされる。
むし歯の原因菌は歯が生えてから生後31ヶ月頃までに、主に両親から感染する。
2歳半までは、歯みがきよりも感染予防に重点を置く。
歯みがきやフロスなどのプラークコントロールを適切に行うことで、むし歯のリスクは減少する。
歯科医院における歯面清掃により、プラークの付着を抑えることが出来る。
2-2 環境(歯の質・唾液・全身疾患)
むし歯リスクの中で「環境の輪」の中身を具体的にあげると、歯そのもののむし歯への抵抗力や唾液の量と質、そこに関わる全身疾患のことになります。
これらは他の2つのリスク要因と違い、唯一遺伝的な影響を大きく受けますが、その多くは適切に対処することで改善することが可能です。
① 歯が強い、歯が弱いってあるの?
「親譲りで歯が弱いからいくら頑張ってもむし歯ができてしまう…」「あの人は歯が丈夫だから全然歯みがきをしなくてもむし歯にならない」そういった患者様からの発言は珍しいものではありません。
実際、むし歯に対する歯の抵抗力は、個人差は大きく遺伝的な影響は大きいと考えられています。
ここでいう「歯の強さ」とはむし歯原因菌の酸による脱灰への抵抗力であり、エナメル質の厚みや石灰化の進行度が大きく関わります。
エナメル質は最も酸への抵抗力が高い部分ですが、もちろんこの部分の厚みがあればあるほどむし歯は内部に進行しにくくなります。
またエナメル質が同じ厚みであっても、脱灰への抵抗力は異なります。
エナメル質を分厚くすることはいくら努力しても叶いませんが、フッ化物を利用することでエナメル質の抵抗力を高めることは可能です。
年齢によっては歯みがきよりも、フッ化物応用の方がむし歯予防に効果があると言われています。
② 唾液はむし歯に対する天然の特効薬
お口の中に常にある唾液は、そこに含まれるリン酸イオン・カルシウムイオンにより24時間いつでも歯に対して再石灰化を行い、脱灰された部分を修復し歯を強化し続けてくれています。
それだけでなく、ペルオキシダーゼという抗菌成分により細菌の増殖を抑えてくれたり、重炭酸イオンにより細菌の作り出す酸を中和してくれたりとむし歯予防に大活躍です。
質の良い唾液がたくさん作られる方が、唾液が少ない方や質が良くない方よりもむし歯のリスクを低く抑えることが出来ます。
また唾液が少ない方のむし歯予防は、歯みがきをしてくれない方のむし歯の何倍も困難です。
唾液の質や量は、生まれつきの要因や生まれてからの要因が関わり個人差は大きく、特に質に関して改善は難しいのですが、唾液の量に関しては改善が可能です。
③唾液分泌量に関わる全身的要因
唾液が少ない方のむし歯予防は非常に困難ですが、唾液腺の働きに大きな影響を及ぼす全身的要因はたくさんあります。
中には完治や改善が困難なものも多く、そういったケースではより色々な角度からむし歯対策をする必要があります。
★加齢に伴う変化
唾液腺の機能は加齢とともに低下して、それに伴い作り出される唾液の量も少なくなりむし歯のリスクは上昇していきます。
また加齢とともに日常的に服用する薬剤が増えることもむし歯のリスクに影響を及ぼします。
★糖尿病
糖尿病の方の中でコントロールがうまくできていない患者様は、糖代謝の異常から唾液腺の働きが低下し唾液の量が少なくなります。
それだけでなく免疫が低下することから、歯周病が進行しむし歯に対して弱い歯根が露出してしまう事もあり、総合的にむし歯のリスクが上昇します。
★薬剤
降圧剤 | 抗ヒスタミン薬 | 催眠鎮痛剤 | 抗不安薬 |
抗てんかん薬 | 不整脈用剤 | 鎮咳薬 | 気管支拡張剤 |
消化器潰瘍用剤 | 鎮痙剤 | 抗パーキンソン剤 | 精神神経用剤 |
上記のように花粉症や高血圧で服用されるお薬や、その他にも複数のお薬の組み合わせによる副作用として、唾液の減少が認められることが確認されています。(NDL ミントセミナー「むし歯予防」の回より)
高齢者の方々では、複数の常備薬を日常的に服用されている方も少なくありませんので注意してむし歯予防に取り組んだ方がいいといえるでしょう。
対策としてお薬の服用をやめるわけにはいかないので、ブラッシングを頑張ったり甘いものを控えたりと、別の側面で重点的に予防に努める必要があります。
★ストレス
過度な精神的ストレスを受けている方は、常に交感神経優位で興奮した状態が続きます。
交感神経優位の状態では、作りだされる唾液はネバネバした状態のものが増えて、サラサラのものが減ることにより、総じて口が渇いた状態に陥りやすくなります。
このような唾液の量や質への大きな影響が、長期間続くとむし歯が発生しやすくなってしまいます。
(医歯薬出版 デンタルハイジーン別冊 歯科衛生士のためのカリオロジー 参照)
★睡眠
日中は1時間当たり平均19mLの唾液が分泌されていますが、睡眠中はこれが平均2mLと大幅に減少します。
朝起きた時に口がカラカラになっている経験をされた方も少なくないと思いますが、このように乾燥した状態では、細菌の増殖を抑えることもできず、歯の再石灰化を行うこともできません。
このような理由から就寝前の歯みがきが重要と言われています。
★鼻疾患などによる口呼吸
慢性的な鼻づまりがあるような方は、鼻による正常な呼吸ができず、無意識のうちに口呼吸の習慣が獲得されがちです。
口呼吸を行うと当然口腔内は乾燥してしまい、乾燥することによりむし歯の原因菌は増殖しやすくなり、結果的にむし歯発生のリスクは上昇します。
④「環境の輪」を小さくするために誰でもできるホームケア
ここでは誰でも簡単にご自宅で唾液を増やしたり、歯を強化したりしてむし歯リスクの「環境の輪」を小さくするための方法を解説いたします。
★ガムを噛んで唾液を増やす!
まずむし歯を防ぎ修復してくれる大切な唾液は、ガムを噛むだけで簡単に増やすことができます。
もちろんガムだけでなく、どんなものでも噛むという行動することで唾液の分泌は促進されます。
ただ、ほとんどの食べ物はむし歯の原因になりますが、次のようなガムはむし歯の原因にならず高いむし歯予防効果を期待できます。
こちらはガムにPosCa(リン酸化オリゴ糖カルシウム)という水溶性カルシウムが配合されており、むし歯の原因にならないどころか歯の再石灰化を促進してくれるガムです。
日本歯科医師会からも推薦を受けており、特定保健用食品の認可も受けています。
また歯科専売でPosCaFというフッ素も配合された商品もあります。
フッ素が配合されたことにより再石灰化促進の効果は一段と増しています。
こちらも脱灰により失った歯のミネラルを補い、再石灰化を促進するCPP-ACPを配合したガムになります。
日本歯科医師会の推薦も受けています。
そしてなぜか市販のリカルデントは特定保健用食品の認可をうけているのですが、歯科専売のものは認可を受けていません。
しかしCPP-ACPは2倍含まれていますので、効果は高くなっています。
ただしCPP-ACPは牛乳由来成分のため、牛乳アレルギーの方は注意した方がいいと思われます。
★唾液腺マッサージで唾液を増やす!
唾液を作り出す唾液腺のなかでも特に大きなものが、上のイラストのように耳下腺・舌下腺・顎下腺と3つあります。
それぞれの唾液腺をマッサージすることにより唾液腺の機能を回復することができます。
(医歯薬出版 デンタルハイジーン別冊 プロケアの本より)
★誰でも自宅で簡単にできる歯のフッ素
自宅で簡単にできる歯のフッ素として、まず挙げられるのはほとんどの方が使用している「歯みがき粉」です。
歯科医院専売のものもありますが、いまは多くのドラッグストアや雑貨店、そしてAmazonなどの通信販売で簡単に安く手に入れることができます。
特に通信販売では、私たちが歯科ディーラーから仕入れる価格と大差のない価格で販売されている事にはいつも驚かされます。
またLOFTや東急ハンズのような雑貨店にも今は非常にたくさんの種類の歯磨き粉が並べられています。恐らく歯科医院専売の商品以外はほとんど揃っているのではないでしょうか。
商品が多すぎてどれがいいのかわからないという方は、おすすめのフッ素入り歯みがき粉を詳しく紹介した以前の記事がありますので、ぜひ参考にしてください。
虫歯0を目指す!虫歯予防に特化した5つの歯磨き粉を実際に試してみた感想
⑤ 「環境の輪」を小さくするために歯科医院でしてもらうこと
★フッ素塗布
歯科医院で有資格者が塗布するフッ化物は、市販の歯みがき粉と比べてはるかにフッ素濃度は高いものです。
そして適切に歯面清掃し、乾燥させた歯面に塗布することで最大限の効果を期待することが出来ます。
★フィッシャーシーラント
乳歯や萌出直後の永久歯は歯質の強度が低く、脱灰に対する抵抗力は大人と比べても低いです。
また、摩耗もしていないので溝も深く汚れが溜まりやすい形状をしています。
そういった汚れの溜まりやすい部分を、むし歯になる前にあらかじめフッ素を放出する樹脂で埋めておくのがフィッシャーシーラントです。
健康保険適応内の処置で、歯は削らないのでブラシと研磨剤でキレイに清掃した後、表面処理を施して溝を埋めます。
2-2まとめ
生まれつきの歯の強度に個人差はあるが、むし歯発生リスクの一部分にすぎない。
唾液はむし歯に対する天然の特効薬である。
ガムを噛んだり、唾液腺をマッサージしたりすることで唾液の量を増やしむし歯のリスクを下げることが出来る。
家庭内・歯科医院でフッ素を有効に活用することで、歯質を強化することが出来る。
2-3 食事(糖に関わる食べ物の量や質)
ここでは、食事とむし歯の関係性を詳しく説明していきたいと思います。
本来人間という生き物は、口の中に食べ物を入れて歯で細かく砕き、飲み込むことで胃や腸に送り込み消化し血液中に栄養を取りこみます。
大きな病気を患ってしまい、口から栄養を摂取できずにつらい思いをされている方々もいらっしゃると思いますが、ほとんどの方は一生涯美味しい食べ物を口の中でしっかりと噛んで味わいたいと願っているのではないでしょうか。
消化過程の入り口である口では、唾液に含まれるアミラーゼという消化酵素により炭水化物が糖分に分解されます。
しかしこの糖分がむし歯の原因菌にとっても栄養となってしまいます。
むし歯の原因菌は、口の中にある糖分をもとに、「不溶性グルカン」と「酸」とよばれるものを作り出します。
「不溶性グルカン」とは、歯にこびりついた汚れのネバッとした成分です。
このネバッとした性質により、むし歯の原因菌は歯に付着することができます。
また文字通り「不溶性」で水に溶けることはありません。
ですから、歯みがきもせずに水やマウスウォッシュでいくら口をすすいだところで、一切歯に付着した細菌は減りません。(日本歯周病学会会誌 2016 年 58 巻 2 号 参照)
「酸」は文字通りの酸で、歯を脱灰させる直接の要因です。
作られた酸は、唾液によって中和されるのですが、無害なレベルにいたるまでおよそ30分の時間を要します。
また、この時間は唾液の分泌量が多ければ短くなり、分泌量が少なければ回復に必要な時間は長くなります。
このように大切な食事をするたびに作り出される糖分から、むし歯ができるために大きな役割を果たしてしまう「不溶性グルカン」と「酸」の2つが必ず作り出されてしまうのです。
① おやつは食べちゃいけないの?食事とむし歯の関係
★むし歯は生活習慣病である。
これは食事直後からの口腔内のpH(数字が小さいほど酸性で脱灰が進行しやすい状態)の変化を表したグラフです。(Stephan & Miller 1943,論文 ステファンカーブ)
図のように食事をした直後から30分間は脱灰が進行しやすい状態が続きます。
もちろん中和が進んでいる途中で、また何かを食べると元の状態に戻ってしまいます。
例えばテレビを見ながら、デスクワークをしながら、横に置いてあるお菓子をつまみ続けていたらどうなるでしょうか。
お菓子だけでなくて、ジュースや、砂糖を入れたコーヒーや紅茶でも同じです。
その間はずっとむし歯ができやすい酸性の口腔内環境が続いてしまいます。
このような習慣がある方は、いくら歯みがきを頑張ってもむし歯の発生を抑えることができません。
私にとって料理人やパティシエの方のむし歯予防はかなり難易度が高いのですが、やはり味見などで頻繁に食べ物が口に入るからだと考えています。
また唾液分泌量と中和にかかる時間は大きく関係しているのですが、例えば何か食べた後や、お酒を飲んだ直後に寝てしまったらどうなるでしょうか。
先述の通り睡眠中には唾液分泌量が極端に低下し、ほとんど中和作用は働きません。
つまり寝ている数時間の間、ずっと酸性でむし歯のできやすい状態が続く事になります。
一人暮らしを始めた大学生やフレッシュマンで急にむし歯ができ始めた時には、よくこういった生活習慣になってしまっていることがあります。
睡眠直前に歯みがきをして細菌量を減らす事も重要ですが、就寝前30以内にむし歯の原因菌の栄養になりうるものは何も食べない、何も飲まないという事もとても重要です。
★特にむし歯のリスクが高くなる5つの食べ物
★キャラメルやチューイングキャンディー
含まれている糖が多いだけでなく歯に長時間付着する。
★チョコ
溶けたチョコレートが歯の細かい溝に長時間残りやすい。
一度覚えたチョコの甘さは忘れられない。
★アメ
食べ終わりまでに時間がかかる。
★糖を含むコーヒー紅茶
摂取回数が多くなる傾向がある。
★炭酸飲料やオレンジなどの酸味のあるジュース
酸性が強いだけでなく、飲料の中でも含まれる糖分の量が多い。
また摂取する回数が多くなる傾向がある。
② すぐに手に入るむし歯予防に役立つお菓子
★キシリトールタブレット
こちらはロッテから販売されているタブレットです。
甘味料はキシリトールしか含まれておらず、特定保健用食品の指定も受けています。
しまじろうがパッケージになっているものもあり、2歳ぐらいでガムの噛めないような年齢のお子様にぴったりでしょう。
私も自分の子供に食べさせている時期がありましたが、おいしいですよ。
③「食事の輪」を小さくするために誰でもできるホームケア
食事とむし歯の発生には大きな関係性があり、間食を含めた食事を色々な側面からコントロールすることでむし歯発生のリスクを抑えることができます。
大人と比べても歯質がぜい弱で、歯みがきもしっかり行き届きにくいお子様において、むし歯を予防するためには非常に効果的だと考えています。
★就寝30分前からは何も食べない。飲み物もお茶か水だけにする。
★食後にガムを噛む
食後30分間はお口の中が酸性になり、むし歯になりやすい環境が続きますが、ガムを噛んで唾液の分泌を促進する事のより、酸が中和されるまでの時間を短縮することができます。
もちろん砂糖が含まれるガムでは逆効果ですが、先述のPosCAやリカルデントといったむし歯の原因にならないガムを噛むことによりむし歯発生のリスクを大きく減少させることが出来ます。
★間食の回数を決める。
3歳未満は2回まで、3歳以上は1回までにする。
★間食の時間を短くする。
テレビを見ながらおやつを食べる、ゲームをしながらおやつを食べるといったことは避けてください。
④「食事の輪」を小さくするために歯科医ができること
食事によるむし歯リスクを抑えるために、私たち専門家が出来ることは実はほとんどありません。
患者様とのコミュニケーションの中から、むし歯のリスクが高くなるような生活習慣を見つけ出し、改善するように指導するという事が私たちに出来ることになりますが、実行するかどうかは患者様に委ねられてしまうからです。
ライフステージによっては、分かっていてもどうにもできないという事もたくさんあります。
ただ、ほとんどの方はご自身の生活習慣とむし歯のリスクとの関係には気付かれていませんし、おやつをちょこちょこ食べるのではなく、一度にたくさん食べるようにしたらむし歯の発生回数が減った患者様もいらっしゃいます。
患者様に聞き入れてもらえるような信頼関係を築き上げるために、ひとりひとりに寄り添ったコミュニケーションをとることが私たちの大きな役割と言えるのではないでしょうか。
2-3 まとめ
食事のタイミング・回数や内容は、むし歯発生リスクに大きく関係する。
歯みがきをがんばっているのにむし歯がどんどんできる人は、食生活習慣の改善が効果的なことが多い。
できればおやつの回数を3歳未満は2回まで、3歳以上は1回に抑える。
食後30分間はむし歯リスクが高い状態なので、その状態の最中で寝ない。
「ながら」食べをしない。
食事直後にガムを噛むことで唾液を増やし、酸性の状態をすぐに解消する。
第2章全体のまとめ
むし歯は細菌・環境・食事の3つの原因が関わって発生します。
ですから、「歯みがきを頑張っているからむし歯にはならない」「甘いものも好きじゃないからむし歯にならない」というわけにはいきません。
歯みがきやフロスといったプラークコントロールの状態だけでなく、生活習慣や親御さんの口腔内の状態も大きく関わっており、様々な側面からアプローチすることでむし歯の予防ができると認識して頂けたのであれば幸いです。
第3章 むし歯リスクをセルフチェックしてみましょう
赤色のチェック欄に、いくつチェックがついてしまったでしょうか?
まず全て青色にあてはまった方は、ご自身だけでなくご家族も非常に口腔内への意識が高く、むし歯のリスクは非常に低いと考えてよいでしょう。
合わせて、定期検診にも通われていれば、「素晴らしい」の一言に尽きます。
赤色のチェック欄にひとつでもチェックがついてしまった方は、むし歯がいつ発生してもおかしくない状況だと考えてもおおげさではありません。
また、6つ以上にチェックがついてしまった方は、非常にハイリスクで現在進行しているむし歯が存在する可能性もあります。
むし歯により痛みが出るのはCo~C4といったむし歯のステージ分類の中でもC3という4番目のステージである可能性が高く、裏を返せばそれまでの段階ではあまり痛みが出ることはありません。
むし歯も小さなうちに処置する方が、歯の寿命への悪影響は抑えることができますので、多くのチェックがついてしまった方は、早めに歯科医院を受診されることをおすすめいたします。
第4章 むし歯についてよくある質問とその回答
4-1 むし歯って遺伝するの?
むし歯発生に関わる遺伝的な要因は一部分に過ぎませんので、ご両親ともにむし歯が多いといかなる抵抗も無駄というわけではありません。
4-2 二次う蝕とはなんですか?
二次う蝕とは、むし歯の治療による修復物と歯の境界からできるむし歯を指します。
むし歯治療の際に、歯肉が炎症を起こしていて出血しやすい状態のまま修復すると、その出血のせいで、隙間や段差ができてしまい二次う蝕の発生のリスクが高くなってしまいます。
また歯ぎしりや食いしばりといった過剰な力がかかってしまう習慣がある方では、詰め物や接着剤が変形しやすく、二次う蝕発生のリスクは高い傾向にあります。
一度もむし歯になったことの無い歯の表面には、隙間や段差は存在しないので、一度もむし歯になっていない歯の方がむし歯は予防しやすく、修復物が大きくなるほどむし歯の予防は難しくなってしまいます。
4-3 子供の時にむし歯が無ければ、大人になってもむし歯にならないの?
子供の時にむし歯がなければ、むし歯の原因菌は少ないと考えてよいでしょう。
しかし、例えば生活習慣が乱れてしまったり、過度なストレスを抱えてしまったり、高齢になり病気や薬剤によって唾液の量が減少してしまったりすると、次々とむし歯が出来てくることも珍しくありません。
4-4 フッ素は危険と聞いたことがあるけど、口に入れても大丈夫なの?
症状 | 発現量 | 体重10kgで500ppmの歯磨剤(チェックアップジェル バナナ 60g/本)の量に換算 |
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腹部症状 悪心・嘔吐・下痢 | 2mg/kg | 40g(0.66本) |
低カルシウム結晶 心不整脈 | 5mg/kg | 100g(1.66本) |
確実な致死量 心臓・腎臓・中枢神経における中毒 | 32~64mg/kg | 640~1280g(10~21本) |
(医歯薬出版 デンタルハイジーン別冊 歯科衛生士のためのカリオロジー 参照)
確かにフッ素には毒性があり、一度に多量に摂取すれば急性中毒を引き起こし、過剰な量を長期間摂取すれば歯に白斑が現れるフッ素症を引き起こす原因となります。
急性中毒で最も軽い嘔吐や下痢は、体重1kgあたり2mgのフッ素を摂取することで引き起こされるとされています。
たとえば体重10kgの1~2歳くらいのお子様ですと、20mgという計算になります。
そして、その年齢でよく利用される「チェックアップこどもジェル バナナ」などは濃度が500ppmですので、ジェルを40g飲み込んだら下痢や嘔吐が現れる計算になりますが、新品のチューブ1本で60gですので、新品をほぼ1本飲みこむ計算になります。
慢性中毒の「過剰な量を長期間」というのは毎日急性中毒を引き起こしてもおかしくない量を10年以上摂取し続けた場合ということのようです。
もちろんありえない話ではありませんが、お子様の手が直接届かない場所に保管しておいて頂ければ、通常に使用するにあたっては特に心配は必要ありません。
また適切な使用量のライオンのホームページにも掲載されていましたので、ぜひ参考にしてください。
4-5 妊娠すると歯が弱くなるって聞いた事があるけど本当なの?
妊娠により、歯からカルシウムが奪われて歯質が弱くなるということはありません。
しかし唾液の質が変化するという報告もされています。(産婦人科MOOK 妊娠中の歯科 1980)
そして、つわりにより歯みがきができなかったり、甘いものが止められなくなったりと、体の変化は大きいタイミングです。
また、産後も授乳の度に夜中に起きなければいけない事もあれば、歯磨きする前に子供と一緒に寝てしまうということもよくあります。
このように体調だけでなく生活習慣にも大きな変化があるライフステージですので、なるべく定期検診にだけは通うように心がけてください。
4-6 定期検診はどれくらいの頻度で行くべきですか?
定期検診の頻度は、歯科医師の考え方によって違いがあるのですが、私はほとんどの方に3ヶ月に1度の受診を推奨しています。
むし歯でなく歯周病予防の観点から間隔を決めることが多いのですが、4か月汚れが残り続けると歯槽骨の破壊が始まる、4か月以上あくとモチベーションが急激に低下するというのが主な理由です。
ただし、コントロールが良好な方は4~6か月の間隔をおすすめする場合もあります。
4-7 食後すぐの歯みがきはダメって聞いたけど本当なの?
食事の直後はお口の中が酸性になり、歯面では「脱灰」が進んでいる局面になります。
このため食事の直後に歯みがきをすると、歯の摩耗が進んでしまいやすいのでやめましょうというのが理想的な考え方ではあるのですが、研磨剤のない歯みがき粉で適切なブラシ圧でブラッシングを行えば、特に大きな影響はないと私は思います。
朝ごはんの前に歯みがきをしてしまうとご飯が美味しくありませんし、食べてすぐに学校や会社に向かって帰ってくるまで歯みがきを忘れてしまうくらいなら、食事の直後にでも歯みがきをする方がむし歯のリスクは抑えることができるのではないでしょうか。
第5章 むし歯を治療しないでいると、健康を損ない大きな病気につながります。
5-1 痛くないから治さなくてもいい、ということは絶対にありません!
まずむし歯はかなり進行しなければ、痛みや穴は出てきません。
このような状態でも外から見るだけではむし歯が見つからないことも多々あります。
我慢できないような痛みが現れるのは、このような状態になってからがほとんどです。
ここからの治療は、抜髄や感染根管治療といういわゆる「根っこの治療」になるのですが、根の治療にまで至ってしまった歯は、歯の将来性が大幅に悪くなります。
まず、むし歯になっても痛みがでなくて気付きにくい、根尖性歯周炎を繰り返す可能性がある、歯根破折を起こす可能性が高くなるという事が、歯の寿命が縮まってしまう理由です。
必ずむし歯は痛くないうちに発見し、治療を行いましょう!
5-2 むし歯が高める大きな病気のリスク
むし歯が大きくなると細菌が歯根から歯槽骨に到達し、化膿性の炎症を引き起こします。
これだけですとむし歯のステージでいうC4という状態に過ぎないのですが、さらに放置し続けると顎骨の骨髄炎にいたります。
骨髄炎は最悪の場合、顎骨切除に至ります。
また歯でしっかりと噛んで食事をするということは認知症の予防につながります。
神奈川歯科大学の研究では、歯が20本以上残っている人と比べると、入れ歯も使わずに食事をしている人たちの認知症のリスクは1.9倍であったという結果が出ています。(神奈川歯科大学 歯科から考える認知症予防への貢献 山本龍生先生著 論文参照)
またむし歯が多くプラークコントロール状態が悪いと、口腔内の細菌量が多くなり誤嚥性肺炎のリスクが高くなるということは広く知られています。(プラ-クコントロールの臨床 金子至先生著 参照)
肺炎は死因として総合第3位ですが、90歳以上の方では悪性腫瘍よりも高く第2位です。(2017年厚生労働省発表 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii09/deth8.html)
平均寿命がどんどん延びているからこその結果ではありますが、健康で長生きしていくために、歯を大切にしていても何も損はしないのではないでしょうか。
第6章 まとめ
拙い構成力で、重複した内容もあったのではないかと思われますが、最後まで目を通して頂きありがとうございました。
歯科医療も日々進歩しており、不勉強がゆえにすでに時代遅れになっている点もあるかもしれません。
毎日多くの患者様と接していても、皆さまおひとりずつ全く別の人間で、誰一人として同じ生活をしているわけではないため、確実なむし歯予防は本当に難しいものだと痛感いたします。
しかし、一人としてむし歯ができてほしいと願うような人はおらず、どなたも痛い思いや食べられない不幸から逃れたいという思いを抱いていらっしゃいます。
ここまで読み終えてくださった皆様の将来が、ここで得たものによって少しでも良くなることを願っています。
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